自家製梅酒はなぜ合法なのか ── 酒税法のロジックで読み解く「梅しごと」

今年も日本伝統の梅の季節がやってきました(ゆるめの記事ですみません)。私は通常のホワイトリカーではなく、ウオッカとブランデーで梅酒を仕込んでみました。蒸留酒の個性で味わいがどう変わるか、いまから熟成が楽しみです。
ところで、お酒は原則として免許がなければ造ってはいけません。にもかかわらず、梅酒だけはなぜ家庭で当たり前のように仕込めるのでしょうか。財務・税務に携わる人間としては、この「例外の構造」がどうしても気になります。本記事では、出典にあたりながら酒税法のロジックを整理し、あわせて梅酒を美味しく仕上げる仕込み・熟成のコツをまとめます。
1. 大原則 ── お酒を造るには免許が要る
酒税法は、酒類の製造を一律に免許制としています。酒類を製造しようとする者は、製造場の所在地を所轄する税務署長の免許を受けなければならない(酒税法第7条)。無免許で造れば、いわゆる「密造酒」です。罰則は 10年以下の懲役または100万円以下の罰金(同第54条)と、決して軽くありません。
ここで言う「酒類」とは、アルコール分1度以上の飲料を指します。梅酒も当然これに含まれます。
2. 落とし穴は「みなし製造」
問題は、ゼロからお酒を醸造しなくても「製造」とみなされてしまう点です。
酒類に水以外の物品を混和した場合において、混和後のものが酒類であるときは、新たに酒類を製造したものとみなす(酒税法第43条第1項・要旨)
つまり「ブランデー+梅+氷砂糖=梅酒」という混和も、形式的には**新たな酒類の製造(みなし製造)**にあたります。この条文だけを読むと、家庭の梅酒づくりはすべて違法、ということになってしまいます。
なぜこんな規定があるのか。国税庁の説明によれば、お酒に糖などを加えると発酵が進んでアルコール度数が上がることがあり、そうなると適用される税率が変わって公平な課税ができなくなるため、混和も原則として製造とみなしている、ということです。日本の酒税は、発泡性酒類・醸造酒類・蒸留酒類・混成酒類で税率が異なるため、度数や分類が動くことを税法は嫌うわけです。
3. 家庭の梅酒を救う「例外規定」(第43条第11項)
では、なぜ家庭で仕込む梅酒はOKなのでしょう?実は、消費者向けに立派な適用除外規定が設けられているのです。国税庁のHP(https://www.nta.go.jp/taxes/sake/qa/06/32.htm)では次のように整理されています。
焼酎等に梅等を漬けて梅酒を作る行為はみなし製造に該当するが、消費者が自分で飲むために、アルコール分20度以上で酒税が課税済みの酒類に、一定の物品以外のものを混和する場合には、例外的に製造行為としない。要件を整理すると次の3点です。
- ベースの酒 … アルコール分 20度以上 かつ 酒税課税済み(酒税法第43条第11項)
- 混ぜてはいけない物品を使わない … 米・麦・あわ・とうもろこし・こうりゃん・きび・ひえ・でん粉やこれらのこうじ、ぶどう(やまぶどう含む)、アミノ酸類・ビタミン類・香料等は不可(酒税法施行規則第13条第3項)
- 新たにアルコール分1度以上の発酵がない こと(酒税法施行令第50条第14項)
国税庁が示す根拠法令は、酒税法第7条、第43条第11項、同法施行令第50条、同法施行規則第13条第3項 です。
ウオッカ・ブランデーが適法な理由
私が今年使ったウオッカとブランデーは、いずれも度数の高い蒸留酒で、課税済みの市販品です。ブランデーやウイスキー、ウオッカは20度を大きく超えるため、要件1をらくらく満たします。漬け込むのは梅と氷砂糖だけなので、要件2の混和禁止物品にも触れません。つまり、まったく問題なく適法です。
逆に、日本酒・みりん・ワインなど20度未満の酒類で梅酒を作ると法律上は違反になってしまいます。ここが見落とされがちなポイントです。(ちなみに度数の高いお酒の方が抗菌作用があり梅酒の仕込み過程で失敗が少ないようです。)
4. 「売らない・無償なら配ってよい」の境界
この例外はあくまで自家消費のための規定なので、例外の適用を受けた酒類は販売してはならないとされています(酒税法第43条第12項)。
では家族や知人に飲ませるのはあり? ここは少し丁寧に見る必要があります。
- 国税庁の通達は、「自ら消費するため」には 同居の親族 が消費する分を含む、と解釈しています。
- さらに、2007年の政府答弁書では、自家製造した果実酒を無償で知人等に提供することは「販売」に当たらず、第43条第12項に違反しないとの見解が示されました。国税庁の担当者も、自家製梅酒を近所に無償で配ることは想定される行為として許容される、と説明しています。
整理すると、有償販売はNG、無償のおすそ分けは現実的にOK。ただし、大量に造って注文をとって売るような場合は、個人でも製造事業者としての手続きが必要になるということと解されます。
5. ひと昔前は「梅酒づくり=違法」だった
いまでは初夏の風物詩ですが、1962年(昭和37年)の法改正以前は、家庭で梅酒を造ることは酒税法違反でした。現実には多くの家庭で普通に造られており、法律のほうが生活実態と乖離していた、という背景があります。改正によって、ようやく実態に合わせた例外が整えられました。
なお、飲食店等が店内で自家製梅酒を提供する場合は、2008年(平成20年)4月30日施行の特例(租税特別措置法第87条の8)により、事前申告と記帳を条件に、免許なしで提供できるようになっています。ただしこちらは 蒸留酒限定 で、家庭の特例とは別の枠組みです。
6. ひと目でわかる仕込みの全工程
ここまでが「なぜ合法か」の話。ここからは「どう美味しく仕込むか」の話。まずは全体像を一枚にまとめました。


7. 美味しく仕上げる仕込みのコツ
- 梅の品質がすべて。 梅酒づくりで最も重要なのは梅の質です。青梅を使えば清涼感のあるすっきりした味わいに、完熟梅を使えばフルーティーで芳醇な仕上がりに。傷のある梅は濁りや傷みの原因になるので取り除きます。
- ヘタ取りは丁寧に。 竹串で一粒ずつヘタを取り除くと、エグ味のない澄んだ琥珀色になります。市販品にはできない、家庭ならではのひと手間です。
- 水気は厳禁、瓶は消毒して完全乾燥。 瓶・フタ・パッキンを消毒し、しっかり乾かしてから使います。水気はカビの最大の原因です。
- 甘味は氷砂糖が定番。 純度が高くゆっくり溶けるため、梅のエキスが徐々に抽出され、まろやかで深みのある味になります。
- 蒸留酒で個性を出す。 ホワイトリカーの代わりにブランデーを使うと、一味違ったこだわりの梅酒になります。ウオッカはクセの少ない中性スピリッツで、梅本来の香りを素直に立たせてくれます。
8. 熟成・保存のコツ
- 最初の2週間は時々瓶を回す。 砂糖が溶けきるまでは瓶内の濃度が不均一になるため、1日1回ほど静かに回して、すべての梅から均等にエキスを抽出します。この「まわす」工程が熟成のコツです。
- 冷蔵庫はNG、常温の冷暗所で。 冷蔵庫に入れると熟成が進まず、風味に丸みが出ません。直射日光を避けた常温の冷暗所で寝かせます。
- 飲み頃は6か月〜1年。 半年でおいしく飲め、1年寝かせると色が琥珀色に深まり、コクと深みが増します。長く寝かせるほどまろやかになります。
- 長期熟成なら梅は1年で引き上げる。 それ以上漬けたままにすると、実から苦味や渋みが出ることがあります。2年以上熟成させたいときは、1年で梅の実を取り出してから続けます。
9. 余談 ── サングリアと「中国酒の梅酒」を同じ物差しで斬る
この「20度以上の蒸留酒」という物差しを当てると、身近なお酒の合法・違法がきれいに整理できます。
自家製サングリアは、実は違法の可能性が高い。 お店でもよく見かけますが、ベースのワインは20度未満の醸造酒なので、家庭の特例(20度以上が必要)にも、飲食店の特例(蒸留酒限定)にも当てはまりません。残る逃げ道は「飲む直前の混和」(カクテル扱い)ですが、サングリアは事前に漬け込んで作り置きするため、これにも当たりません。国税庁も、通常レシピのサングリアは酒税法違反との見解を示しています。合法的に出すなら、注文ごとにその場でワインに果物を入れる(=実質カクテル)しかない、というわけです。
中国酒だと、白酒と紹興酒で扱いが正反対になる。
- 白酒(バイジュウ)= 適法。 40度前後が主流の蒸留酒(世界三大蒸留酒の一つ)で、20度以上・課税済みの条件を満たします。ただし香りが非常に強いので、梅の繊細な香りを上書きしがち。「梅で香りづけした白酒リキュール」に近い、かなり攻めた一本になります。クセの穏やかな清香型を選び、氷砂糖を多めにして角を取るのが無難です。
- 紹興酒 = 要注意。 もち米を原料とする醸造酒(黄酒)で、度数は14〜18度が中心。20度未満なので、日本酒やワインと同じ理由で漬け込みは違法になります。紹興酒の旨味で梅を楽しみたいなら、グラスに注いで干し梅(話梅)を落とす中国式の飲み方が、「消費の直前の混和」として現実的です。
「梅酒 = 合法/サングリア = (漬け込みは)違法/白酒梅酒 = 合法/紹興酒梅酒 = 違法」。すべて 20度・蒸留酒 という一本の物差しで説明できてしまうのが、酒税法の面白いところです。
まとめ
家庭の梅酒が合法なのは、酒税法のみなし製造に対する「自家消費の例外」が効いているからでした。20度以上の課税済み蒸留酒に、自分(と同居家族)が飲むために漬けるかぎり、免許は要りません。ウオッカやブランデー、白酒で仕込むのも同じ理屈で問題なし。一方、ワインベースのサングリアや紹興酒の梅酒は、度数の壁で違法になります。
ルールを理解したうえで、丁寧な下処理と冷暗所での熟成を心がければ、市販品にはない一杯が育ちます。今年の蒸留酒梅酒、半年後の味見が待ち遠しいかぎりです。
出典・参考
- 国税庁「お酒に関するQ&A(よくある質問)〔自家醸造〕」 https://www.nta.go.jp/taxes/sake/qa/06/32.htm
- e-Gov 法令検索:酒税法(第7条・第43条・第54条)、酒税法施行令(第50条)、酒税法施行規則(第13条)、租税特別措置法(第87条の8)
- 弁護士ドットコムニュース「焼酎のお湯割りを友達に作ったら酒税法違反ってホント?」(国税庁酒税課への取材)
- PRESIDENT Online「あのワインバルのサングリアは法律違反?」(税務署酒類指導官への取材)
- 衆議院 政府答弁書(2007年・酒税法に関する質問への答弁)
- チョーヤ梅酒「梅酒の作り方」、蝶矢「梅酒を上手に熟成させるポイント」、白ごはん.com「梅酒のレシピ」
- Wikipedia「梅酒」「サングリア」「紹興酒」(各条文・度数の確認用)
本記事は一般的な解説であり、個別の判断にあたっては最新のe-Gov条文と所轄税務署の酒類指導官にご確認ください。
